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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)4号 判決

上告人

伊藤和久

被上告人

浜松労働基準監督署長 森川昇

右指定代理人

藤井俊彦

外九名

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

職権をもつて案ずるに、原審の確定するところによれば、次のことが明らかである。

訴外株式会社雪島鉄工所に雇用されていた上告人は、昭和五〇年四月八日、作業従事中に同僚から暴行を受けて傷害を負い、その治療のため同月九日から二一日までの間休業し、その間、有給休暇として賃金が支払われた同月九日の一日分を除いては賃金の支払を受けなかつた。上告人が右期間につき労働者災害補償保険法(以下「法」という。)に基づき休業補償給付請求をしたのに対し、被上告人は、同五二年二月一日、上告人の右傷害は業務上のものと認められないとの理由をもつて、右休業補償給付の支給をしない旨の決定をした。上告人は、右決定に対し審査請求をしたが、棄却され、更に再審査請求をしたが、これも棄却されたので、前記決定の取消しを求めて本訴を提起した。他方、右訴外会社は、上告人の負傷事故の発生に関し、同五〇年四月一〇日、上告人に対し、同日から向う一〇日間の出勤停止を課し、その他の関係者に対しても、懲戒を課した。

右事実に基づき、原判決は、上告人が右休業補償給付請求をしている同五〇年四月九日から二一日までの期間のうち、九日は有給休暇として賃金が支払われており、一〇日から一二日までの間は休業補償給付の対象とならないものとし、一三日、一九日、二〇日は右会社の公休日であり、一四日から一八日まで及び二一日の六日間は上告人が右会社から前記負傷事故の発生を理由とする懲戒として出勤を停止されていた日であつて賃金請求権が発生していないから右休業補償給付の対象となる賃金の喪失はなく、休業補償給付請求権は発生しないと判断して上告人の請求を棄却すべきものとした。

しかしながら、法一四条一項に規定する休業補償給付は、労働者が業務上の傷病により療養のため労働不能の状態にあつて賃金を受けることができない場合に支給されるものであり、右の条件を具備する限り、その者が休日又は出勤停止の懲戒処分を受けた等の理由で雇用契約上賃金請求権を有しない日についても、休業補償給付の支給がされると解するのが相当である。

してみれば、雇用契約上賃金請求権が発生しない日は休業補償給付の対象とはならないとの見解を前提とし、右公休日及び出勤停止となつた日について休業補償給付請求権が発生する余地がないことを理由として、上告人の本訴請求を排斥した原審の判断には、法の前記条項の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。そして、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れず、本件については、被上告人の前記決定の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(谷口正孝 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 和田誠一)

上告人の上告理由

一、被上告人は訴外会社の虚偽報告書(安田源司現認書)を職権で認証したものであり、違法現認報告を見抜けなかつた被上告人の公務は重大過失である。さらに、訴外会社の違法現認を放任する公務は、著るしい職権乱用であり公務に違背する行為である。

訴外会社の刑犯罪が構成する違法現認報告に基づく怠慢な労働行政は、労働者災害補償保険法第十二条の三に違背する行政である。

被上告人が認証しているその違法現認書とは刑法第一五九条(私文書偽造)に違反するものである。

訴外会社の虚偽報告は上告人の業務上労災事故認定を阻害する業務妨害である。

被上告人が違法現認報告を放任する行為は、上告人の基本的人権を侵害するものである。

上告人は平等な裁量権を授受する権利を憲法で保障されているものである。

訴外会社の虚偽報告を訴外安田源司が認知した以上、被上告人が公務の不平等を貫徹することは違憲である。

被上告人には、上告人の生存権を侵害した訴外会社の違法現認を認証した過失責任を明らかにする義務をもつものであり、現認を変換する権利は有しないものである。

被上告人は業務上労災事故成立要件を明確にしたものであり、訴外会社の懲戒権乱用と混同する裁量は、違法現認を認証した被上告人の過失を重複するものである。

すなわち、訴外会社も被上告人も同一の業務災害に対しているものであつて、同一の現認に基づいていることは自明であるから。

本件は業務上の労災事故認定に争いを持つものであり、業務の遂行性を除く業務起因性で被上告人の否定があるもので、上告人は業務起因性を立証しているものであり、被上告人の条件違反であり、公務の偽りである。

本来、被上告人の過失責任に於いて、違法労働行政の暴走を阻止して禁止すべき事由のものであり、被上告人の過失を正当化しようとするもくろみは、本件業務上労災事故認定とは別件である。

被上告人は訴外会社の刑犯罪に裁量権を行使したものである。

さらに、訴外浜松東社会保険事務所は適用保険を適格に分岐させる資格を有する公共機関であり、第三者行為の書類審査を踏えた上で、上告人は業務上労災事故と決定されたものである。上告人がその行政指示に従うことは、誤解しているものではない。

被上告人が上告人の生存権を軽視して侵害するものであり、訴外浜松東社会保険事務所の裁量を中傷する行為は偏見的裁量である。

被上告人の偏見的裁量の中には訴外会社及び訴外安田源司の違法現認を認証した不正の裁量を含んでいるものである。

従つて被上告人は労働者災害補償保険法第十二条の三を遵守する義務をつとめず、同法同条に違背した事実は労働者災害補償保険契約を履行しない契約違反である。

さらに被上告人は訴外安田源司の人証を認めず、現認者として該当しない訴外会社の懲戒権乱用を認める裁量は違憲である。

訴外安田源司の人証は、「上告人は上衣を脱がなかつた」と事実を告白したものである。

訴外会社の虚偽報告は「上告人がはだかになつた」と報告しているものである。訴外会社は現認の資格はないものであり、現認者の私署偽造によつて私文書を偽造するに至つた事実は刑法違反である。

その事実を放任する被上告人の裁量は明らかに裁量権乱用である。

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